松尾和子の歌手としての伝記を記します。
なんでかっつーと、加齢を乗り越えて変貌を遂げた素晴らしい歌手だからです。
なのに、素晴らしい歌手としての情報よりも、スキャンダラスな情報の方があまりに多いからです。
女性というのは加齢によって声が変わりやすいんです。たぶん、筋力の衰えが早いせいだと思いますが。
しかし、流行歌手というのは、十代や二十代の良い声の頃に歌ったヒット曲を、三十代や四十代や五十代になっても、つまり加齢によって声が変わってしまってからも、同じ曲を歌わなければならないわけです。
で、多くの場合、変声にうまく対応できずに、ただ
「懐かしい歌手が当時の曲を歌っている」
という枠に収まっていくわけですが、松尾和子の場合は、年代によって歌い方を変えて対応し、それが非常に的確で、あるレベルを保っていて、見事でした。
というわけで、加齢を乗り越えて、数度の変貌を遂げた素晴らしい歌手だと思うわけです。
であるにも関わらず、素晴らしい歌手としての情報よりも、スキャンダラスな情報の方があまりに多いです。
高度成長期生まれの我々の世代だとタレントやコメンテーターや女優としての印象が強く、また晩年は子息が逮捕され、その際、指名手配をされた後に逃亡したため、とても話題になり、さらにバブル崩壊で大きな借金を抱え、さらにさらに子息逮捕から1年後に自宅の階段から転落して突如逝去した、死後もまた親族間で揉め事が起きて、スキャンダルの対象として話題になり、記憶されています。
これがですね、不憫なわけです。
芸術家ってのは、表現された芸術によって評価されるべきで、私生活や性格は本質的なものではありません。
つまり、芸術と人格は切り離して考えるべきだ、と。切り離して味わうべきだ、と。
だから莫大な借金を抱えて事故死した、とか、長男が逮捕された上に親族間にもめ事が起きた、とか、そーゆー事ではなく、見事な歌唱を生み出し、多くの民衆に聴かれ、受け入れられ、愛され、魂を揺さぶったことこそが彼女の生涯の栄光であり、我々のような後世の音楽好きは、それを知り、讃えなければならないでしょ。
というわけで、歌手としての松尾和子を讃えて、伝記を記していきましょう。