ある明治人の伝記その7〜井上篤太郎/京王電鉄の発展

2018年2月4日

厚木市 上三田出身で、京王電鉄を経営して業績を上げ、晩年は貴族院議員を務めた井上篤太郎さんの伝記その7です。最初から読む方はこちらから→

 

さて、篤太郎さん、大変な状況の京王電鉄の経営に乗り出します。

 

大正4年、57歳の時です。

 

経営を引き受けるにあたって条件に出したのは、借入金の免除と新たな借入です。

 

京王電鉄の親会社の森村財閥は、森村財閥創設者の森村市左衛門が直々に森村銀行頭取として乗りだし、八十七万円の借入金を免除した上で、さらにもう五十万円貸してくれたそうです。当時の森村銀行の資本金と同じ額です。

 

そして、5カ年の基本計画を建てます。

 

・線路を延長すること

・複線工事を行うこと

・会社の収支状態を改善すること

・電灯電力事業の拡張

・玉川砂利の搬出

 

さらに、篤太郎さんはとても細やかな気遣いを持っていて、

 

「電鉄とはサービスだ」

 

と考えていたようです。

 

「電車というものは大衆の便利のためにあるべきで、私どもの電車(京王電鉄)は、このことだけは十分に考えているつもりです。」(篤太郎さんの述懐)

 

へぇ。

 

若い方はご存じないと思いますが、昔、電鉄会社ってサービス悪かったんですよ。

 

特に国鉄なんてひどいもんで、国鉄が分割民営化されても、それによって労働争議が起こっても、国民の多数の支持や同情を得られなかったのは、国鉄のサービスがひどすぎたからでしょうね。

 

わたしは子供の頃から神奈川中央交通のバスと小田急電鉄の電車を利用していました。

 

民営企業ですから、国鉄よりはサービス良かったですけど、ひどいもんでした。今考えれば。

 

あれは、たぶん、

 

「公共の事業を行っているんだ」

 

というオゴリでしょうね。企業としての。なんで、そこでオゴルのか、よくわかりませんが、それが古い日本だったんでしょう。

 

それを大正時代に「大衆の利便」なんつってるわけですから、合理的な精神にあふれてますね。

 

さらに、労使一体の大方針を持っていたそうです。

 

資本家と労働者が対立するのではなく、双方が会社の株式を持ち、会社と利害を共にする、と。そのため、増資の際には必ず社員にも株を割り当てた、と。

 

大正時代というのは、民衆が自身の権利を主張し始めた時代であり、マルクス経済主義が紹介され、メーデーが始まった時代なわけですが、篤太郎さん経営下の京王電鉄では、一度も労働争議が起こらなかったそうです。

 

「私は入社と同時に資本家と勤労者と顧客の三者は常に同一でなければならないと固く信じ、この主義の下に経営の任にあたっている。

 

まづ、労使関係について言えば、資本家という者があって巨万の富を擁していても、何か事業を起こしこれに投資しなければ、その資本を有効に使用することが出来ないから、巨万の富も死蔵するほかない。

 

他方、どんなに明敏な頭脳をもって、優秀な技能を有する勤労者があっても、資本家が事業をおこしてくれる限り、その才腕を振るうことができないから、むなしく仕事をしないで暮らすほかない。

 

ここに労使協調の必要が起こる。

 

つまり、仕事を起こしている資本家に仕事をする勤労者を結びつけることである。こうして、自然に共存共栄して事業の達成が望まれるのである。

 

しかし仕事はそれだけで出来るものではない。

 

電鉄会社としては一般の利用者本位ということを一時も忘れることはできないのである」(篤太郎さんの述懐)

 

はぁー。

 

見事に合理的な精神であり、経営哲学です。現代の人の話を聞いてるみたいですね。

 

そのような経営哲学を持って篤太郎さんは経営の任にあたった結果、京王電鉄の社運は上昇の一途をたどります。大正14年には、創業15周年記念配当を含めて18%の株主配当を行うことができ、株主にとても感謝されます。

 

しかもその間、これも和田豊治の依頼で王子電気軌道(現在の都電荒川線)の整理更生に力を貸したほか、昭和3年までに、下記のような要職を歴任しています。

 

・社団法人鉄道同志会 理事

・関東電気株式会社 監査役

・玉川製氷株式会社 取締役

・社団法人電気協会 理事

・南武鉄道株式会社 取締役

・社団法人帝国鉄道協会 理事・副会長

・在東京 神奈川県人会 会長

・目黒玉川電気鉄道株式会社 監査役

・神奈川県学生協会 会長

・大同電気株式会社 取締役

・甲州街道乗合自動車株式会社 社長

・相模瓦斯株式会社 取締役

 

そして昭和3年、70歳で、京王電気鉄道株式会社の取締役社長 兼 専務取締役に就任します。

 

しかし、日本は昭和2年に恐慌が起こり、経済は大不振に陥ります。昭和金融恐慌です。篤太郎さんと京王電鉄も、これに無縁ではいられませんでした。

 

続く→

日常

Posted by hirooka